映画『プリズン・サークル』を鑑賞してきたので、今回は脱獄ものが好きな僕が簡単ではあるが感想を綴っていきたいと思う。


映画『プリズン・サークル』感想
プリズン・サークルとは、取材許可まで6年かかり撮影に2年を費やした、日本ではじめて刑務所にカメラを入れたドキュメンタリー映画である。
僕はこの予告を見た段階でもうこれは見るしかないといった心境だった▼
ただ実際に観てわかったのは、この映画は受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り更生を促す
「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」というプログラムを起点に物語が動いていたということだ。
こちらは「島根あさひ社会復帰促進センター」という官民協働の新しい刑務所で、日本で唯一導入しているものらしい。

で、これの興味深い点は、受刑者の心の葛藤がエグイほどリアルに映し出されているところである。
たとえば受刑者のひとりである健太郎は、借金に困った末に親戚の家に侵入し叔父に傷害を加えてしまった人物。
彼はここに移送されてきた当初、インタビューで当時の事件を振り返って
被害者への謝罪よりもあのときの自分に戻りたくない気持ちが強いと話していた。
第三者からするとこの発言は身勝手と捉えることもできる。ただ、それは当事者にしかわからない感情なのかもしれない。
しかし、これがTCに取り組むことで健太郎の心情の変化が現れてくるのだ。
TCのプログラムには、受刑者同士で加害者と被害者の立場になって話し合う取り組みがある。
そこでは、加害者である健太郎に対して被害者である、傷害を加えられた叔父や健太郎の嫁の役をTC内のメンバーが演じるのだ。
これが実際やってみるといろいろな気付きが生まれてくる。
健太郎は事件に対して自分の素直な感情を表に出すも、被害者役のメンバーから次々と被害者側の気持ちをぶつけられてしまい思わず涙してしまう場面もあった。
確かに服役中に被害者の気持ちを直接知ることはなかなかできない。
けれど、実際に相手側の気持ちになった人物を置くことで犯罪の原因をしっかり見つめられるならTCをやる大きな理由になる。
これが罪と向き合うことの本質なのかもしれない。

刑務所の中より気になったアレ
劇中では、服役中の4名の人物のストーリーを主軸に構成されている。
僕は当初刑務所の中を知れるという興味本位で映画館に足を運んだが、それより気になることがあった。
それは受刑者の、
子供の頃の家庭環境だ
登場する4人全員の家庭環境が決して良いと言える状況ではないのである。
一言でいうと親からの愛情が著しく足りていない。
虐待的な暴力はもちろんのこと、一升瓶を持って酒を飲んでは夜に消えるという典型的なやばい父親が、受刑者の父親だったりもするのだ。
平和な家庭環境で育った僕からするとそのリアルが壮絶すぎる…。
事実、刑務所に服役している犯罪者の家庭環境は
- 家庭内暴力
- 愛情不足
- 過度なストレス
の共通点があるそうだが、この4人もまさにそれらに当てはまっていた。

一番印象的な翔の言葉
最後に僕がもっとも印象的だった受刑者・翔の言葉について。
彼は人を殺めてしまった人物。
そんな彼は「人を殺したら死ななければならない」と思って生きてきてたが自分もそちら側に行ってしまった。
しかし一方で現在は「自分はいい死に方をしたい」という気持ちも芽生えてきたという。
そこでTCの『2つのイス』と呼ばれるロールプレイを行うことに。
これは2つの感情を別々に切り離して、もう一人の自分と交互に入れ替わって感情をぶつけていくというもの。
結果的に彼は自分の気持を整理して次のステップに進むことができた。
ここで翔は、「自分も悩んでもいいし、いい死に方をしたいと願ってもいいと思えた」と言っていたので、これもTCでしかできない取り組みだったといえる。
そして翔の出所前インタビューでこれらの取り組みを通して感じたこと話してもらっていると、インタビューが終わった去り際に
「握手してもいいですか」
と監督に聞いてきたのだ。
刑務所の規則では身体接触は認められていない。おそらくそれは翔もわかっていたはず。
なのにその言葉を発することの意味を考えると、ちょっと泣けてきた。
結論
TCまじ大事